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東京地方裁判所 昭和55年(ワ)1129号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

二そこで右被告らの同年一〇月八日の直接の売買契約が、原告への報酬支払を回避するため故意に原告を排除してなされたものか否かについて以下検討する。

1 ところで、原告と被告ら間においては一〇月二日の時点において、既に、原告の仲介斡旋により翌一〇月三日午後五時半に原告事務所において、本件物件についての売買契約を締結すること、そしてその際買主である被告半田両名から売主である被告小熊に対し、手付金として二〇〇万円が交付され、残金はその数日後までに支払うこととし具体的な期限は契約時に決定する旨の合意がなされていたものであることは前記認定のとおりであり、被告半田両名が一〇月二日午後三時ころ買受申込金として一〇万円を原告に交付し、原告はその旨の領収証(甲第三号証の三)を作成して同被告らに交付したものであることも前記認定のとおりである。

これに反し被告半田両名は申込金一〇万円の交付およびその旨の領収証の受領は認めながら、それは一〇月一日に賃借の申込金として交付したものである旨主張し、被告半田哲章も同旨およびその領収証も甲第三号証の三ではなかつた旨供述するところである。

しかしながら<証拠>によれば、原告事務所においてはその当時、顧客に対する領収証の発行に備えて市販の、五〇枚綴りで発行の都度発行した部分と控部分との間に契印を押捺し、控はそのまま綴る形式になつている領収証綴りを使用しており、これは業務上の帳簿類として、日付順に記載して発行し、書き損じ又は領収証の返還がなされた場合にはこれを当該の控とともにとじこむ体裁で保管していたものであること、そして甲第四号証は本件領収証発行の前後である昭和五四年九月一一日から同年一二月一日の間の右領収証綴りであるが、これには同被告ら主張の一〇月一日には領収証の発行はなされておらず、同被告らに対するものとしては一〇月二日付の控しかなく、右控と甲第三号証の三との間の契印も一致するものであること、そして原告は同被告に対し領収証は一通しか発行していないこと(この点は同被告も同旨を供述している。)、また原告は当初一〇月一日に被告半田両名からマンション賃借の斡旋を依頼されて、本件物件にも案内したが、そのころには同被告から本件物件を買受けたいとの申出がなされていて、同被告らから賃借の申込金を受領する必要は何らなかつたものであることが明らかであつて、前記同被告らの一〇月一日に、賃借の申込金として一〇万円を交付した旨の主張および被告半田哲章の供述は、右動かし得ない証拠に照して、虚偽であると断ぜざるを得ない。

2 さらに被告ら間で直接本件物件の売買契約がなされた一〇月八日は原告の仲介斡旋のなされた時期と極めて接着しており、また右の売買契約書による代金額も一八〇〇万円と原告の仲介、斡旋した額とさほどの相違がない金額であることは前記認定のとおりである。

この点について売主である被告小熊の元夫である証人小熊亨一は本件物件と同じ建物中の六〇六号室の購入代金支払い時期が切迫していて本件物件の売却代金をそれにあてるべく、被告半田らとの間の売買が中止されてから、多数の不動産を訪ね歩き、ついに被告半田らが銀座で洋服店を経営していることを思い出して同月七日右被告半田両名の経営する店に赴いて事情を説明して本件物件を買受けてもらい、右代金は同月一三日までに支払つてもらつた旨証言し、被告半田哲章も同旨を供述しているものである。

しかしながら、右の証言および供述自体不自然であるのみならず、右被告ら間の売買契約書(前記丙第一号証)では残代金の支払時期として同月一三日が約定されてはいたが、さらに右残金は所有権移転登記および引渡と引換に支払われるべきことをも約定されていたこと、および本件物件については同年一二月一七日付売買を原因として同月一九日付で被告半田両名に対し所有権移転登記が経由されているものであることは前記で認定したところであり、真実一〇月一三日に残代金の支払がなされているのならば、何故右時点で移転登記がなされなかつたかは極めて疑問であり、結局右証言および供述はたやすく措信し得ないものというべきである。

3 以上の諸点および前記認定の事実関係を合せ考慮すれば、被告ら双方はいずれも原告の仲介斡旋によつて間もなく本件物件の売買契約が成立するに至るべきことを知りながら、これによる契約の成立を避けて報酬の支払を回避すべく、故意に原告を排除したものであると推認するのが相当であり、右認定を左右するに足りる証拠はない。

従つて被告らは民法一三〇条の趣旨に従い、原告に対し売主および買主として後記認定の報酬を支払うべき義務があるものというべきである。

三原告は被告らに対し、建設省告示一五五二号「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買、交換又は貸借の代理又は媒介に関して受けることのできる報酬の額」に基づき、売主および買主の双方に対し、それぞれ代金額の三パーセントに基本料六万円を加算した額の支払を求めているものである。

しかしながら、原、被告ら間に右額による報酬の支払の合意がなされたことについては本件全証拠によつても認めることができないところであり、また右原告主張の建設省告示によつて被告らの支払義務が生ずる筋合のものでもない。従つて原告が報酬として被告らに請求し得るのは商法五一二条に従い、相当な額に限られるものと解するのが相当である。そして前記で認定した原告の仲介斡旋行動の程度、代金額等諸般の事情を考慮すれば、原告に対する報酬の額は売主、買主のそれぞれにつき、各五〇万円とするのが相当であると判断される。

(手島徹)

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